トップページ > 校長室から > H29 > 3月22日(木曜日) 卒業式式辞

3月22日(木曜日) 卒業式式辞

更新日:2018年6月15日

式   辞

 石巻湾をわたる潮風にのり、ここ渡波にも一歩ずつ春の足音が聞こえて来そうな今日 3月20日、本校 父母教師会会長 小山真紀様をはじめ、多くのご来賓の皆様、そして保護者の皆様のご臨席を賜り、平成29年度 石巻市立渡波小学校の卒業式をかくも盛大に、かつ、おごそかに挙行できますこと、まことにありがたく、卒業生、在校生、そして、職員一同厚く感謝申し上げます。

さて、30名の卒業生の皆さん、卒業おめでとう。

思い起こせば、皆さんの入学式は稲井小学校の体育館で行われました。震災前には16学級453名いた児童も、皆さんが入学した年には12学級、257名まで減少し、中でも、1年生の児童数は、一番少ない24名でした。次の日からは、毎朝7時50分に渡波小学校に集合して、8時に出発するスクールバスに乗っての通学が始まり、小さかった1年生の皆さんにとっては、さぞかし、たいへんな学校生活のスタートだったことと思います。そして、稲井中学校の校庭に建てていただいた仮設校舎での約2年7ヵ月にわたる学校生活を過ごした後、やっと本校舎に戻ったのは、皆さんが3年生に進級する春のことでした。

本校舎に戻って4年が経とうとしています。この間、各方面から、物心両面にわたる多くのご支援をいただきながら、皆さんは成長してきました。渡波小学校の震災後の歩みは、まさに、皆さんの歩みそのものといっても過言ではありません。

皆さんは、今日の幸せが当たり前ではなく、明日も同じようにやってくるとは限らないことを身にしみて感じてきたことと思います。

これまでのことを思うにつけ、今日、こうして、思い出のたくさん詰まったこの学び舎で、家族や地域の方々に見守られて卒業式を行えるということが、決して当たり前のことではないのだということを皆さんはよく知っているはずです。

 今、皆さんがしっかり手にしている卒業証書には、震災からの7年間に味わったつらかった思い出ももちろん含まれていることと思いますが、それ以上にたくさんの楽しかった思い出がたくさん詰まっています。その重みをしっかりと感じ取ってほしいと思います。

 たくさんの思い出の中でも、渡波小学校の最上級生となったこの一年間の皆さんの活躍ぶりには目を見張るものがありました。学校行事や委員会活動、そして第55代鼓笛隊としての見事な演奏など、さまざまな場面での皆さんの姿は、下級生のよき手本であり、あこがれでした。渡波小学校の子どもは、こうあってほしいという願いを形にしてくれた皆さんに校長として、心から感謝します。本当にありがとう。

今日まで新しかったことが、明日には古くなってしまうというほど、変化の激しい21世紀を担う大切な子どもたちを育てる仕事をしている教育者として、皆さんに一つだけ、はなむけの言葉を贈ります。

 それは、「自分のよさを生かす」ということです。

 昨年の6月26日、プロ入り以来、29連勝の大記録を打ちたて、30年ぶりに将棋会の歴史を塗り替えたのを皮切りに、11月21日にプロ入り後、歴代最速の1年1ヵ月で50勝を達成し、さらには、今年に入り、史上初となる中学生での5段昇段、先月には、冬季オリンピックで羽生結弦選手が男子フィギュアで二大会連続となる金メダルを取ったのと同じ日に、羽生竜王を破り、その後の決勝戦でも勝利し、史上最年少での6段昇段を決めて将棋ファンだけではなく、日本中を驚かせた藤井聡太さんの活躍はみなさんもよく知っていると思います。藤井6段が、将棋を始めたのは、おばあさんから子供用の将棋セットをプレゼントしてもらった5歳のときだったそうです。将棋の相手をしてくれたおじいさんもすぐに歯が立たなくなり、近所の将棋教室に通い始め、6歳の誕生日には、幼稚園でもらったカードに「将棋の名人になる」と書くなど、すでに自分の夢をしっかり持っていたことが分かります。

 藤井6段の強さの秘密の一つが「集中力」だそうです。幼稚園のころに詰め将棋に挑んだ藤井6段が「考えすぎて頭が割れそう」と言ったというエピソードが、集中力の高さを物語っていると思います。 

 集中力は読書にも発揮され、小学生のころには既に、司馬遼太郎の「竜馬が行く」などの長編小説を読んでいたそうです。連勝中のある対局後のインタビューで、先輩の棋士に勝った藤井6段が、「恭悦(きょうえつ)」です、と答えた場面がありました。この言葉の意味は、「恐縮して喜ぶ」という意味です。つまり、先輩に敬意を表しつつ、謙虚に勝ったことを喜ぶという、まさにその場にふさわしい言葉でした。適切な言葉を瞬時に判断して使える言語力の高さと、決しておごることのない品格に驚くとともに大きな感動を覚えました。こうしたことも豊富な読書経験で培われたものなのだと思います。

 一方で、苦手なこともあるそうです。それは、意外にも買い物です。たとえば、コンビニで買い物をする際に、「財布をどのタイミングで出そう」とか「レシートをもらったらどこにしまおう」というように、次々と心配事が浮かび、買い物ができなくなってしまうそうです。いつも先々を読むことが習慣になっているがために、私たちにとっては簡単なことが苦手になってしまったようです。

でも、藤井6段のように、一つでも、自分の得意なものや好きなことがあるというのは、大きな強みであり、大きな力となります。

世の中は、一人一人が、それぞれのよさを生かしながら、苦手なことを補い合い、助け合って動いています。ですから、皆さんも、まずは、自分のよさとは何であるかと自分に問いかけて、確かめてください。そして、自分がもっている、自分にしかない「よさ」を思う存分自信をもって発揮できる人になってくれることを願っています。

 保護者の皆様に申し上げます。本日は、お子さまのご卒業、まことにおめでとうございます。この世に生を享けてから今日の日まで、たくさんの愛情を惜しみなくそそいで育ててこられたお子さまの晴れの姿を目にし、その喜びはいかばかりかと推察するに余りあります。

 期待と不安に胸を膨らませて入学した日から6年、無事に卒業の日を迎えられたことをお祝い申し上げますと共に、お子さまの未来がいっそう輝かしいものとなるよう心から祈念いたします。

 また、6年間の長きにわたり、渡波小学校にお寄せいただきました、かずかずのご支援、ご協力に対しまして、この場をお借りして、衷心より厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 卒業生の皆さん、さあ、巣立ちの時です。大人になったときに、悩んだり、困ったりしたときに思い出すのは、ふるさとの風景や家族、そして友だちだといわれます。皆さんも、ふるさとであるこの渡波、そして、日本に自信と誇りをもち、世界で活躍する人になってほしいと切に願っています。皆さんの後ろには、皆さんを心から応援する家族や先生や友達、そして地域の方々がいることを忘れずに、未来に向かって大きな一歩を踏み出してください。30名の未来に幸多かれと願い、式辞といたします。

  

平成30年3月20日

                       石巻市立渡波小学校

                             校長 長沼 静子